2019年7月26日〜8月4日、世界野球ソフトボール連盟が主催する「第5回 WBSC U-12ワールドカップ」が台湾で開催されました。今大会に「招待枠」として初出場を果たしたフィジー代表。フィジー野球の大きな一歩といえるワールドカップ出場の裏側には、意外にも日本との深い繋がりがあったようです。
ワイルドカードで奇跡のW杯出場権獲得
12歳以下の野球チーム世界一を決める「WBSC U-12ワールドカップ」。本戦に参加できるのは、当然、地区予選を勝ち抜いてきた世界のトップチームのみとなります。
そもそもフィジーは世界ランク75位の弱小国です。野球強豪国である日本にとってワールドカップ出場は当たり前のようなものですが、フィジーにとってはまるで夢物語でした。
しかし今大会では、オセアニア予選大会が取り止めになったことにより、フィジー代表チームに願ってもいない話が舞い込んできたのです。
ワールドカップの予選大会は、最低3ヶ国の参加が必要とされています。しかし、オセアニア地区の参加予定国が相次いで辞退し、オーストラリアとフィジーの2ヶ国のみとなってしまったために大会は中止。世界ランクの高いオーストラリアがワールドカップ本戦に自動選出となりました。
通常ならここで終わりますが、世界野球ソフトボール連盟の粋な計らいで、なんと予選大会中止の救済措置としてフィジーに「ワイルドカード(特別招待)枠」のオファーが!
フィジーにとっては後にも先にもないであろう、まさにウルトラCの出来事です。
招待されたのにお金がなくて参加できない!?
喜ぶのもつかの間、フィジー代表選手団には最大の問題が立ちはだかります。それは、「開催される台湾までいくお金がない」ということです。
フィジーでスポーツといえば、もっぱらラグビー。フィジー人たちにとって野球はまだまだマイナースポーツです。プロ野球ももちろんなく、テレビで野球の試合が映ることもありません。野球が普及し始めたのも2000年代に入ってからで、現地では「野球って何?どうやってやるの?」という人も多くいます。
そんなフィジー野球ですから、ワールドカップ出場といえど、当然、国から潤沢な予算がつくわけもなく、ましてチームが自力で海外に行けるほどの経済力もありませんでした。
フィジーと日本の意外な繋がり
「せっかく手に入れた千載一遇の大チャンスを無駄にしたくない……」強い気持ちで立ち上がったのは、フィジー野球の普及を願う日本人、持田貴雄氏でした。
実は、日本はこれまで20年近くフィジー野球の普及活動に協力しており、コーチ派遣や用具の寄付など、様々なサポートを行なっています。
持田さん自身も、2008年〜2011年まで野球のフィジー代表監督を務め、2017年からはフィジー野球・ソフトボール協会の会長に就任されています。
持田さんは、フィジー国内でどうにもならないなら……と、今までフィジー野球に関わってきた日本人に声をかけ、クラウドファンディングを実施。約150万円の支援が集まり、悲願の大会参加が叶ったのです。
台湾でもフィジーらしさを爆発させる子どもたち
日本人の支援によって台湾へ遠征することができたフィジー代表選手団の子どもたちは、大会本戦でも多くの学びがあったようです。夢の大舞台の様子を持田さんより詳しくご報告いただいたので、ここで一部をご紹介します。
まず、台湾到着後に行われた試合前日の記者会見では、早速フィジー人らしい明るさで報道陣を魅了しています。
他国の球児達がさほど関心を示さずにイベントを眺めている横で、我らが球児達は、台南市の小学生によるオーケストラ演奏では体を動かしてリズムに乗り、チアガールによるダンスステージの際には歓声を上げ(「そういうのは、まだ早い」と注意しました(笑))、地元メディアからは「カメラを向けた際の反応は君たちが一番だよ」との誉め言葉(?)を頂く等、早速、持ち味であるエンジョイスタイルを十二分に発揮しました。

試合は、予選ラウンド5試合と順位決定戦の3試合の計8試合行われました。肝心の試合内容については、残念ながら格上のチーム相手に厳しい結果を突きつけられる結果となってしまったようです。
フィジーの対戦成績一覧
試合 | 対戦国 | 得点 | 結果 |
---|---|---|---|
1戦目 | 南アフリカ | 28-2 | 負 |
2戦目 | チェコ | 30-1 | 負 |
3戦目 | キューバ | 27-1 | 負 |
4戦目 | 日本 | 30-0 | 負 |
5戦目 | 台湾 | 32-0 | 負 |
6戦目 | アメリカ | 28-0 | 負 |
7戦目 | オーストラリア | 15-0 | 負 |
8戦目 | イタリア | 16-1 | 負 |
持田さんによると、ワールドカップの対戦で多くの課題を残した一方で、選手たちには少しずつ変化が見られた部分もあったのだとか。以下は3試合目のキューバ戦の様子です。
世界トップチームと試合ができるというこれほどにない経験をして、プレーに対する積極的な姿勢や、技術的・精神的な成長が見られた選手もいたとのこと。
その意味でも、他の参加国の皆さんにはご迷惑をお掛けしているのかもしれませんが、ワールドカップ本大会に参加することができて、本当に良かったと思います。やはり、経験に勝るものはありません。この2週間で選手達が学び、感じ取ったことが、将来のフィジー野球の大輪を咲かせる過程となることは間違いないと確信しました。
今後のフィジー野球にも乞うご期待!

ちなみに、本大会は開催国である台湾が優勝、そして、決勝で4-0で敗北を喫した日本は準優勝となりました。
最後に、大会に引率していた持田さんより、本大会の振り返りと今後のフィジー野球についての展望が語られました。
同時に、このような結果は事前に想定出来たにも拘らず、ワイルドカードによる招待枠をフィジーに与えて下さった世界野球・ソフトボール連盟のご好意に改めて感謝すると共に、今回のフィジーによる結果がワイルドカード枠の選考対象基準に負の影響を与えないことを願うばかりです。世界にはフィジーのような状況に置かれている国はたくさんあり、彼等が夢や目標を見失うことのないよう、引き続き、ワイルドカードが希望の光であり続けることを願ってやみません。
そして、実力不足にも拘らず幸運にも世界最高峰の大会への参加機会を得たフィジーは、ご恩返しのためにも、これに満足することなく現実と正面から向き合い、どれだけ時間がかかるか分かりませんが、課題を一つ一つ克服し、少しでも世界トップとの差を縮められるよう、協会がそのための環境を整備すると同時に、参加球児達が先頭に立ちながら、選手レベルでの更なる奮起を促していく他にないのかと、現時点では考えております。大会を通じて球児達が何を感じたのか、彼等が持ち帰る何かがいつか花開くその日まで見守っていきたいと思います。そして、台湾でも一定程度の理解と共感を得ることのできたエンジョイベースボールの精神は、フィジー野球の強みとして今後も大切にしていかなければならないと感じました。
フィジーのスポーツというと、ラグビー以外の選択肢は極端に少なく、ラグビー以外のスポーツをしたくてもなかなか身近に良い環境がありません。
フィジーに野球が普及していくことは、未来ある子どもたちの可能性を広げることに繋がると、私は思います。フィジー野球・ソフトボール協会のこれからの活動にも注目です。